大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)1027号 判決 1970年7月31日
原告
松本亀七
ほか四名
被告
北大阪自動車株式会社
主文
一、被告は
(一)、原告松本亀七に対して金一二五、三七三円および内金一一〇、三七三円に対する昭和四三年一〇月一九日から、内金一五、〇〇〇円に対する本判決言渡日から、
(二)、原告松本ヨシヱに対して金三〇五、〇三二円および内金二七五、〇三二円に対する昭和四三年一〇月一九日から、内金三万円に対する本判決言渡日から、
(三)、原告松本千鶴代、同松本勲、同松本照二に対して各金一〇九、六〇五円および各内金九四、六〇五円に対する昭和四三年一〇月一九日から、各内金一五、〇〇〇円に対する本判決言渡日から
それぞれ年五分の割合による金員を支払え。
二、原告らのその余の各請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを六分してその五を原告らの、その余を被告の負担とする。
四、この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告ら
被告は
原告亀七に対し金八〇万円、
原告千鶴代、同勲、同照二に対し各金一、〇八八、七七三円
原告ヨシヱに対し金一、五二一、九六〇円
およびこれらに対する昭和四三年一〇月一九日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
二、被告
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決。
第二、当事者の主張
一、原告ら、請求原因
(一) 本件事故の発生
日時 昭和四三年一〇月一八日午前一時五〇分ごろ
場所 大阪市東淀川区十三西之町二丁目三番地先路上
事故車 普通乗用自動車(大五い三四二一号)
運転者 訴外横川高広
態様 訴外松本一義が西から東へ横断中、折から北から南へ進行してきた事故車にはねられた。
死亡者 右一義は同日午前五時二五分ごろ同区十三東之町二丁目豊田病院において頭蓋底骨折により死亡した。
(二) 権利承継等
原告亀七は亡一義の父で、原告ヨシヱは亡一義の妻であり、その他の原告は一義の子である。一義の死亡により右妻子がその権利義務を承継した。
(三) 帰責事由
被告は事故車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたから、運行者として本件事故から生じた損害を賠償すべき責任がある。
(四) 損害
1 亡一義の逸失利益 金四、三二八、二八〇円
職業、大阪市東淀川区三津屋中通四の四、大信ペイント株式会社勤務
日収、金一、五〇〇円
稼働日数、月二五日(月収三七、五〇〇円)
生活費控除、月一万円
年令、死亡当時四四才
稼働可能年数、一九年
ホフマン係数、一三、一一六
(算式)
二七、五〇〇円×一二×一三・一一六=四、三二八、二八〇円
2 慰藉料
原告ら 各七〇万円
3 医療費(原告ヨシヱ負担) 金二八、八〇〇円
一義が豊田病院に入院した際の費用
4 葬儀費(原告ヨシヱ負担) 金二六万円
5 弁護士費用(報酬)
原告ら 各一〇万円
原告ヨシヱは逸失利益の三分の一、金一、四四二、七六〇円、原告千鶴代、同勲、同照二はその九分の二宛、各金九六一、八四〇円を相続した。
(五) 損益相殺
原告亀七を除く原告らは、自賠保険金三、〇二八、八〇〇円を受領しているので、これを逸失利益に充当すると、
原告ヨシヱの相続残余分は 金四三三、一六〇円
原告千鶴代らは 各金二八八、七七三円
となる。
(六) 被告に対して、
原告亀七は慰藉料、弁護士費用金八〇万円、
原告千鶴代、同勲、同照二は、右のほか相続分を加えた各金一、〇八八、七七三円
原告ヨシヱは損害金項目金一、五二一、九六〇円およびこれらに対する不法行為の翌日である昭和四三年一〇月一九日から右各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、被告
(一) 請求原因に対する認否
本件事故の発生は、原告ら主張の日時、場所において交通事故が発生し、松本一義が死亡したことは認める。
帰責事由は認める。
損害はすべて争う。
損益相殺の自賠保険金受領金額は認める。この内訳は治療費二八、八〇〇円、死亡による損害三〇〇万円である。
(二) 亡一義が死亡当時四四才で大信ペイント株式会社に勤務していたことは認めるが、同社に勤務したのは昭和四三年九月二〇日からで、死亡まで一か月間もない。一義は昭和三八年八月六日から同四二年一二月二〇日まで関西車両整備株式会社に勤務していて、同年中の勤務日数が二〇一日であつた。月二五日の稼働については疑問である。
(三) 過失相殺
本件事故現場は昼夜人車の交通量がきわめて多く、横断歩道以外の歩行者の横断は厳重に禁止され、歩車道との間に鉄柵が設けられている。一義は飲酒の上、あえて横断しようとして車両間を割り込むようにして歩行していたもので、同人には重大な過失がある。
第三、証拠〔略〕
理由
一、本件事故の発生
原告主張の日時、場所において交通事故が発生し、松本一義が死亡したことは当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によると、訴外横川高広は事故車を北から南へ向け運転していたところ、西から東へ横断してきた一義をはねとばし、事故発生日の午前五時二五分一義は大阪市東淀川区十三東之町の豊田病院で頭蓋底骨折により死亡したことが認められる。
二、権利承継
一義が死亡したので、妻である原告ヨシヱが三分の一、長女の原告千鶴代、長男の原告勲、二男の原告照二が各九分の二宛の権利義務を承継した。(〔証拠略〕)
三、被告の責任
被告が事故車の運行供用者であることは被告において自認するところであるから、自賠法三条によつて本件事故から生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
四、損害
1 逸失利益 金三、一四七、八四〇円
一義の職業 大阪市東淀川区三津屋中通四の四大信ペイント株式会社倉庫係として勤務。
日収、一五〇〇円
稼働日数 月二〇日
生活費控除 月一万円
年令、死亡当時四四才(当事者間に争いがない)(〔証拠略〕)
就労可能年数を六三才まで一九年
ホフマン係数 一三・一一六
により算出すると、
(一五〇〇円×二〇)-一万円=二万円
二万円×一二×一三・一一六=三、一四七、八四〇円
なお右証拠によると、稼働日数については、一義は大信ペイントに二七日間在職したのみで、その間一五日しか出勤せず、欠勤の理由について父の入院手続のためであるが、それだけでは欠勤日数がかなり多く、またそれ以前に四か月余勤務していた港湾冷蔵株式会社においても平均月一五日弱しか勤務しておらず、転職も多く月二五日稼働し得たと認定できない。しかし最近真面目な勤務状態となつてきたこと、家族のことも考えるようになつてはきた点を考慮して、月二〇日の稼働日数を認めた。
2 医療費(豊田病院分) 金二八、八〇〇円
原告ヨシヱ負担分(〔証拠略〕)
3 葬儀費 金二五万円
原告ヨシヱが金二六万円を支出したことを認めうる証拠はないが、一義の葬儀費として通常成人について二五万円程度の葬儀費用を要することは公知の事実であるので、この限度において認める。
4 慰藉料
原告亀七は一義の実父である。(〔証拠略〕)一義の死亡により、一家の中心的人物を失つた悲しみ大きく、その余の原告らも同様でその精神的苦痛に対する損害として、
原告亀七 金七〇万円
原告ヨシヱ 金一五〇万円
その他の原告ら 各金六〇万円
が相当である。
そうすると、
原告ヨシヱは 逸失利益相続分 金一、〇四九、二八〇円
医療費等 金一、七七八、八〇〇円
合計金二、八二八、〇八〇円
原告亀七は 金七〇万円
その他の原告らは、逸失利益相続分、各金六九九、五二〇円
慰藉料 各金六〇万円
合計金一、二九九、五二〇円
五、過失相殺
〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。
本件事故現場は大阪駅から豊中または尼崎方面に通ずる大阪市東淀川区の十三南交差点の北側の路上で、歩車道の区別があり、車道幅二四メートル、直線、平たんでアスフアルト舗装されている。交通量は当時南行車両が多く、北行車両は殆どなく、センターラインは南行四車線、北行二車線と両側へずれていた。車両の制限速度は五〇キロメートルとなつていて、横断歩道以外での歩行者横断禁止道路でそのための標識、歩車道の境には柵が設けてある。現場は銀行、商店が両側にあり、夜間はやや明るい程度であるが、前方の見とおしは良効である。
訴外横川は、昭和四三年八月二六日に普通第二種免許をうけタクシー運転手として本件事故まで二か月足らずの経験しかなかつた。当日入庫するべく現場の第三区分帯を時速六〇キロメートルで南進し、前照灯を下に向けていたところ、左側の相互タクシー営業所前に停車中の車が道路中央へ発進してくるのでないかと思われたので、その方に注意を向けている間前方、右側への注意が欠けた間に前記交差点北側の横断歩道の中央から約三二メートル北側の地点で右前部に接触を感じた。そして事故車のボンネツト上に一義が乗り上つているのをみて驚いて急ブレーキをかけて右横断歩道に約一・三メートル車体が進入して停車したが一義は事故車の右前部の約一・五メートル前方に転落した当時事故車の前方には先行車はなく、対向車もなかつたが左後方に数台の車両が進行して来ていた。
一方一義は、妻と十三市民病院まで行つて帰りに当日の午後九時半ごろ妻と分れて何処かで相当飲酒しており、自宅へ帰るため現場道路を西から東へ横断したものと思われ、その歩行状況等は明らかでない。
他に右認定を動かしうる証拠はない。
右事実によると、本件事故が訴外横川の前方不注意の過失によつて発生したことは明らかであるが、一義にも大阪市内の交通の激しい主要幹線道路上を横断禁止されているのにかかわらず、飲酒のうえ無謀な横断をなし、しかも約三〇メートル余南側に横断歩道があるのにそこを通行せず、酔余自動車の進行に対する注意をせずに路上を歩行していたものと考えられ、その過失はきわめて大きい。そこで前記運転者の過失と対比して原告側には五割の過失相殺をするのが相当と認める。
過失相殺の結果次のとおりとなる。
原告ヨシヱは逸失利益相続分 金五二四、六四〇円
その他 金八八九、四〇〇円
(内治療費一四、四〇〇円)
原告亀七は 金三五万円
その他の原告ら逸失利益相続分各金三四九、七六〇円
慰藉料 各金三〇万円
六、損益相殺
原告亀七を除く原告らが自賠保険金三、〇二八、八〇〇円を受領しているので、(この点当事者間に争いがない)その主張せる治療費、逸失利益の順に控除すると、残余分が一、四五四、八八〇円であるから、これを按分して控除すると
1 原告ヨシヱは八七五、〇〇〇円-五九九、〇六八円
2 原告亀七は三五万円-二三九、六二七円
3 その他の原告らは三〇万円-二〇五、三九五円
1 金二七五、〇三二円
2 金一一〇、三七三円
3 金九四、六〇五円
七、弁護士費用
原告ヨシヱ 金三万円
その他の原告ら 各金一五、〇〇〇円
(弁論の全趣旨、右認容額、事案の難易等)
八、結論
被告に対して、
原告亀七は、金一二五、三七三円および内金一一〇、三七三円に対する不法行為の翌日である昭和四三年一〇月一九日から、内金一五、〇〇〇円に対する本判決言渡日から、
原告ヨシヱは、金三〇五、〇三二円および内金二七五、〇三二円に対する右昭和四三年一〇月一九日から、内金三万円に対する本判決言渡日から、
原告千鶴代、同勲、同照二は、各金一〇九、六〇五円および各内金九四、六〇五円に対する右昭和四三年一〇月一九日から、各内金一五、〇〇〇円に対する本判決言渡日から、
それぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤本清)